福岡地方裁判所 昭和56年(ワ)1634号 判決
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【判旨】
(一)(1) 被告は、昭和二八年八月に設立されたが、取締役の退任に伴う退職金については実質的には松崎に対する本件が初めてで、従来慣例となるようなものはなかつたこと
(2) 被告の取締役であつた松崎、関藤一(以下「関」という。)、古賀嘉三、久芳大七は、昭和五一年一一月八日に開催された取締役会において、折からの不況に被告をどう改革、合理化して対処していくかの方策を議論した際、取締役退任の際の退職金等について被告主張のような申し合せがなされ、右申し合せは昭和五二年四月から実施することとされたこと
(3) 右申し合せは、取締役会で正規に決議されたものではなく議事録にも記載はないし、株主総会にも報告等はなされなかつたが、その申し合せ(案)に議論の過程で加筆訂正されたものが取締役会議事録綴に編綴されていること
の各事実が認められ<る。>
(二) 次に、被告の株主らが右申し合せの存在を知りうべきであつたかについては、前記認定のとおり申し合せを記載した文書が取締役会議事録綴に編綴されていたのだから株主らに閲覧の機会はある(なお、申し合せを自発的に株主総会に報告する義務まではない。)し、株主総会の席上で本件退職金の決議をするに先だちその支給に関する基準、申し合せの有無、内容を被告の担当者に質問することもできたのであるから、株主らは申し合せを知りうべきであつたということができる。
(三) 株主総会が退任した取締役に対する退職金の支給を取締役会に一任する場合、その一任の趣旨は取締役会が如何なる退職金額を決定しても異存はないというものでないことは経験則上明らかであるが、その一任を受けた取締役会に前記で認定したようなその支給に関する申し合せがあり、それは株主らにおいても知りうべきものであること、及び右申し合せは同規模の他社と比較しても大差はなく、恣意を許すものではないことから考えると、株主総会の本件退職金に対する一任の趣旨は、黙示的に右申し合せに従い合理的に相当な範囲での金額の決定等を取締役会に委ねるというものと解するのが相当である。
そうであれば、本件退職金に関する株主総会の決議は、その支給につき申し合せに基づき相当な金額の決定をすべきことを黙示したものであつて、商法二六九条に違反するものとはいえず、適法というべきである。
(有吉一郎)